入居者ニーズを取り入れた商品力UPのための空室対策
- 賃貸経営
「空室対策に効果的な内装や設備のリフォーム方法を知りたい」
「最新の内装トレンドや入居者の設備ニーズについて知りたい」
アパートやマンションの空室に悩む不動産オーナーにとって、物件の魅力づくりは、入居者を確保するために欠かせない要素です。
本記事では、空室対策として「物件の魅力づくり」に焦点を当て、早期に申し込みを得るための具体的な対策を詳しく解説します。この記事のポイントを押さえることで、効果的な対策が進められるようになります。
≪空室対策における「商品力」とは≫
空室対策における「商品力」とは、物件の魅力を高め、入居者に「住みたい」と感じさせる物件づくりのことです。いくら積極的に募集活動をおこない、検討者の目に届いたとしても、物件そのものに魅力がなければ、内見や申し込みには繋がりません。やみくもにお金をかけるのではなく、費用対効果を考慮し、的確なポイントに絞った対策が重要です。
≪魅力づくりポイントは「明るさ」と「清潔感」≫
人口や世帯数の減少に加え、新築住宅の継続的な供給が続く中、空室問題は今後も不動産オーナーにとって避けられない課題となります。
設備性能は時代とともに向上し、内装デザインの嗜好・ニーズも変化しています。空室対策の観点では、単に「壊れた部分を修理する」原状回復・リフォームだけでは、入居者を引きつける物件にはなりません。
物件の商品力を高めるためには「明るさ」と「清潔感」を意識した物件づくり、そして入居者ニーズに答えるプラスαの改良工事が重要です。
ここでは、専有部と共用部に分けて、物件の魅力を高める空室対策のポイントを解説します。
●共用部の魅力をアップする空室対策
共用部の商品力UPで重要なポイントは「エントランス」「ごみ置き場」「駐輪場」の3点です。これらの場所は、特に入居者はもちろん来訪者の目に留まりやすく、利用頻度も高いため、物件の印象に直結します。
これらの場所に汚れや不具合があり、「暗さ」や「汚さ」を感じさせると、物件全体の評価が大きく下がってしまいます。
共用部の空室対策では、まずはこの3つのエリアに絞って、明るさと清潔感を意識した改良を進めることが大切です。
1.エントランス
壊れかけたポスト、散らばったチラシ、枯れ葉や埃、薄暗い照明。このようなエントランスが物件の魅力を下げる典型例です。ポストや掲示版などの基本的な設備を整え、定期的に清掃し、明るい照明を設置することで、清潔感と明るさを保つことが大切です。
2.ごみ置き場
共用のごみ置き場が野ざらしの状態になると、雨風やカラスのいたずらによってごみが散乱し、臭いが発生しやすくなります。また、ごみが丸見えの状態は物件の印象を大きく損なう要因となります。
ゴミストッカーやスチールメッシュを使用したごみステーションの設置をおすすめします。これにより整理整頓された清潔な状態を保てるだけでなく、入居者にとっても利便性が向上します。
3.駐輪場
放置自転車や雑然とした駐輪場は、物件の印象を下げる典型的な要因です。また、駐輪場周辺は汚れがたまりやすく、私物が放置されがちです。
駐輪場の整備では、屋根の設置、区画ライン引き、ラックの設置が効果的です。整然と並べられた駐輪場は入居者に良い印象を与え、快適な環境を提供します。
●専有部の魅力をアップする空室対策
内装のトレンドは時代と共に大きく変化します。建築当時の色使いをそのまま踏襲する原状回復では、余計に古臭さが際立ち、入居者にマイナスな印象を与えてしまうことにもなりかねません。
また、入居者が重視する設備も時代と共に変わってきています。魅力的な物件を提供するためには、ニーズ変化に応じた柔軟な空室対策が必要です。
1.分譲マンションのトレンドから内装デザインを
大日本印刷株式会社(DNP)が発行する「マンションインテリア動向レポート」では、マンションインテリアのトレンド変遷がまとめられています。特に、内装のカラートレンドは賃貸住宅の内装を検討する際にも多くのヒントを提供してくれます。
例えば、バブル期のマンションでは、整った重厚な高級感が人気で、白い壁紙にダーク系で統一された床、巾木、建具を組み合わせた濃淡のコントラストが効いた内装デザインが主流でした。このデザインはバブル期前後に大量供給された賃貸住宅でもよく使われています。
しかし、現代のトレンドは床・建具ともに淡い色使いに大きくシフトしてきています。また、床と建具の色相やトーンも統一せず、あえてバランスを崩してアクセントを効かせたカラーコーディネートが増えてきています。ほかにも、巾木は壁紙とトーンを合わせる仕上げが圧倒的に増えていたり、床シートの巾幅も時代と共に幅広が主流になっていることがデータでもくっきりと示されています。
このように、内装デザインのトレンドは時代とともに大きく変化しています。そのため、賃貸経営における原状回復リフォームでは、単に汚れた部分や壊れた部分を元に戻すだけでは不十分です。わざわざお金をかけて、余計に古臭さを際立たせてしまっているということも少なくありません。
効果的な空室対策を行うためには、内装材の色選びひとつにもこだわり、最新のトレンドを反映した選定が大切です。
2.入居者のこだわる設備 10年間の特徴的な変遷
アットホーム株式会社の調査によると、賃貸入居者の設備ニーズにもこの10年間で変化が見られます。「ユーザー動向調査 UNDER30 2023 賃貸編」「2013年首都圏 “UNDER30″私たちの選び方~部屋探しのプロセス&マインド~」では、「現在のお部屋を探す際に、最初から最後まで重視した設備」についての意識調査が行われました。
例えば、モニター付きインターホンは特に女性のニーズが強まっており、学生(女性)の重視率は15.6%から21.9%、社会人(女性)は18.8%から22.8%に上昇しました。この変化は、セキュリティ意識の高まりが影響していると考えられます。
インターネット無料接続は、多くの属性でニーズが高まっています。10年間の変化を見てみると、学生(男性)では10.5%から14.5%、学生(女性)では10.5%から18.5%、社会人(男性)は4.3%から9.5%、社会人(女性)は4.3%から17.6%に増加しています。大容量映像コンテンツの普及やテレワークの浸透により、高速インターネット接続が生活必需品に変わってきていることが読み取れます。
一方で、この10年間で重視度が低下している設備もあり、「収納スペースの広さ」「二口以上のコンロ(学生)」が代表的な例です。
例えば、学生の二口コンロ重視率は、特に女性学生での減少が激しく17.8%から13%に減少しています。収納スペースの広さもすべての層で減少が見られますが、特に女性の下落傾向が強く、学生(女性)で26.7%から20.4%、社会人(女性)で29.3%から18.5%と低下しています。
<二口コンロ>
・総菜などの購入傾向が増え、自炊の必要性が低下している。
<収納スペースの広さ>
・コンテンツのデジタル化が進み、DVDや書籍などの物理的な保管スペースが不要になっている。
・物価高や賃金の低さが影響し、「断捨離」「物を少なく持つ」「ミニマリスト」などに代表されるような「必要最低限の物を持つ」という価値観が広がっている
このように、消費者の設備ニーズや優先度は時代とともに変化しています。効果的な空室対策をおこなうためには、変化にアンテナを張った物件づくりが必要です。
株式会社市萬
中小企業診断士 宅地建物取引士 2級ファイナンシャルプランニング技能士
山村 諭史